若年層を中心に増えている、映画やドラマを倍速・飛ばし見視聴するといった新しい視聴スタイル。
この記事では、映画を早送りで視聴する人が増えている理由を考察する本『映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレーーコンテンツ消費の現在形』を実際に読んでみた感想をご紹介します。
著書『映画を早送りで観る人たち』について
今回ご紹介するのが、出版社のDVD業界誌で働いていた経験のある著者の稲田豊史さんが出版した本『映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレーーコンテンツ消費の現在形』。
若年層を中心に増えている映像作品を『早送り視聴』、『倍速視聴』、『飛ばし見視聴』する習慣について、深く掘り下げた内容となっています。
- YouTube や Netflix に実装された『1.5倍速視聴』や『10秒飛ばし』の機能を使いながら、2時間の映画を1時間で観る。
- 複数話で構成されたテレビドラマをエピソードごと飛ばして最終回を観る。
といった現代の視聴スタイルの変化。
従来は『鑑賞』の対象であった映像作品が、現在では『コンテンツ消費』の対象となり、早送りで消費されてしまう‥ この本は、その変化の理由を、外的要因と内的要因から考察した興味深い一冊です。
ちなみに、この本の著者 稲田豊史さんは、2021年に放送された特集、AMEBAの報道バラエティ番組『倍速&飛ばし見視聴は正解?時間を奪い合う時代のコンテンツ論を議論』に早送り違和感派として出演しています。
興味のある方は、ぜひチェックしてみてください★
なぜ映画や動画を早送り再生しながら観る人が増えているのか
『映画を早送りで観る人たち―ファスト映画・ネタバレーコンテンツ消費の現在形』稲田 豊史
『映画を早送りで観る人たち』を読んだ感想
TSUTAYAなどのレンタル店で借りてきた映画やドラマを週末に観るということが多かった約10年前。YouTube や Netflix の普及により、動画視聴の習慣が徐々に変化していることは、私自身の経験や友人などとの会話を通して感じていました。
そんな時に見かけた『映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレーーコンテンツ消費の現在形』というタイトルに興味を引かれ、私はこの本を手に取りました。
本の中では、早送り派の視聴者を批判するのではなく、なぜそのような傾向が生まれたのかを理解したいという著者の姿勢が感じられました。
本の中で紹介されている『新しい視聴スタイル』の中には、正直 驚かされる部分も多くありました。
早送り派の視聴者側と作品の制作者側、多角的な見方から視聴スタイルの変化を分析しているのがよかったです。
視聴者の習慣の変化を察知し、その理由を社会的背景に紐づけていく考察は、新たな視点からこのテーマについて考えるきっかけをくれました。
『映画を早送りで観る人たち』の要約
この本は、映像作品を倍速・飛ばし見視聴するといった『現代の視聴スタイル』について論ずる一冊となっています。
現代の視聴スタイルとしてあげられていたのが、
- 会話がないシーンや風景描写は飛ばす
- 連続ドラマをエピソード(話ごと)飛ばす
- 結末を知るために先に最終話を観る
- 映画やドラマを観る前にネタバレ・考察サイトを読み込む
といったものです。
作品を観る前に、ネタバレ・考察サイトをチェックする理由として、予想外の展開や心が揺さぶられる内容は疲れるという事があげられていたのには正直驚きました。
筆者の分析を要約すると、映像作品を倍速・飛ばし見視聴する人が増えた理由は主に次の3つだといいます。
➀ 映像作品の供給過多‥月額見放題の定額制動画サービスの普及により、視聴可能な作品が急増したことで、現代人は膨大な映画作品をチェックする時間に追われている。それに加え、スマホやSNSの普及により娯楽サービスの供給過多が発生し、動画視聴にかけられる時間は減少。
➁ 多忙に端を発しコスパを重視する人の増加‥時間的にも経済的にも若者の貧困化が進み、タイム・コストパフォーマンスを重視する人が増えたこと。SNSによって共感を強要され、LINEの普及により、交友関係が過度に親密化し、話についていくために常に話題の作品を絶えずフォローする必要性が出てきた。
➂ すべてをセリフで説明する映像作品の増加‥近年、主に日本向けの映像作品には、説明過多のわかりやすい作品があふれている。言葉なしの映像を観て読み解くというよりも、登場人物がセリフで丁寧に説明してしまうシーンの方が多い。そういう作品に慣れると、セリフのないシーンは飛ばしても問題ないという発想に至ってしまう。
映像作品の視聴スタイル変化の裏では、説明過多のわかりやすい作品の増加、日本経済の停滞、インターネット技術の発展と普及など、さまざまな要因が繋がっていることが分かります。
著者は取材を重ねながら、新しい形で映像作品を視聴する人々の内的な事情や、それを取り巻く外的な環境について考察していくのですが、本の中には、映画を倍速・飛ばし見視聴する人たちの生の声が多数紹介されていました。
『面白いかどうか分からないのに、2時間も画面の前に座っていられない』、『好きな俳優の出るお目当てのシーンだけを観られればそれで良い』、『内容さえわかればいいからざっと見て、細かいところはまとめサイトで補足する』など、映像作品への新しい価値観が見えてきます。
倍速・飛ばし見という視聴スタイルでは、作品を味わうことよりも、情報の効率的な摂取が重視されていること、それにより、映画を観るという行為が『作品の鑑賞』から『コンテンツの消費』へと変化していることが示唆されています。
まとめ
この記事では、『映画を早送りで観る人たち』を読んでの感想と本の内容を簡単にまとめてみました。
賛否両論ある映画作品の早送り視聴ですが、その背景にはさまざまな外的要因も関係していることが、この本の中では浮き彫りにされています。
現代の視聴スタイルの変化について、さまざまな角度から考察した、読み応えのある本なので、興味のある方はぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。