Netflixを代表とする定額・見放題の動画配信サービスから生まれた新しい習慣『イッキ見』。
海外ドラマやアニメ作品を一気に複数話まとめて鑑賞することが容易になった今、イッキ見という新しい動画作品の楽しみ方をしている人も少なくないかと思います。
イッキ見は比較的新しい習慣のため、そのメリットやデメリットについては、まだあまり知られていません。
この記事では、イッキ見が流行したきっかけや最新の研究から分かっているイッキ見のメリット・デメリットなどをまとめてご紹介します。
今回は、イッキ見をしているとき私たちの脳内で何が起こっているのかについても説明していきます。
イッキ見という行為は、心身へ悪影響を及ぼす危険性もありますが、社会的つながりや没入感といったプラスの効果をもたらしてくれることも報告されています。
イッキ見のリスクなどを知った上で、節度ある楽しみ方をすることをおすすめします。
イッキ見が流行したきっかけと言葉の由来
連続テレビ番組や海外ドラマなどを一気に何話も視聴することを表す言葉として登場した『イッキ見』。
イッキ見は、『一気見』とも書かれ、英語では『 binge-watching 』と表現します。
過度に何かをしすぎることを意味する言葉『 binge 』と、見るという言葉『 watch 』をくっつけて、『 binge-watching (一気見する)』となります。
『 binge-watching 』という言葉が最初に使われたのは2003年ですが、シリーズ作品を複数話まとめて視聴見るというコンセプトは、2012年頃から流行り出したようです。
全米にイッキ見現象を巻き起こしたきっかけとなったのが、2013年にNetflix が『ハウス・オブ・カード』第1シーズンを週に1話ずつ投稿するのではなく、一度に全13話公開したこと。
これにより、イッキ見『 binge-watching 』という動画配信サービスの新時代が築かれたのです。
『 binge-watch 』は、イギリスのコリンズ英語辞典によって2015年の言葉として選ばれています。なんと、この言葉の使用は、その前年の2014年と比べて200%増になったのだそう。
見放題の定額制の動画配信サービスが誕生したことで、ドラマや映画、アニメを1話から複数話、場合によっては最終話まで一気に連続視聴できるようになり、ついついイッキ見をしてしまう人も増えているようです。
Netflix の調査によると、61%の視聴者が2~6話を一度に視聴していることが分かっています。更に、Netflix会員のほとんどが、シリーズ作品を一気に鑑賞する『イッキ見』を選択し、平均して1週間で1シーズン全話を見終えているのだといいます。中でも、SF、ホラー、スリラー関連のシリーズがよくイッキ見される傾向にあるのだとか。
私たちがイッキ見をしてしまう理由
動画を夢中でイッキ見しているとき、私たちの脳内では何が起こっているのでしょうか?
イッキ見のような楽しいことをしているとき、私たちの脳内にはドーパミンという快楽物質が放出され、快感、興奮、幸福感を促進します。ドーパミンは私たちの気分を良くし、麻薬やその他の中毒性のある物質によって引き起こされるのと同様の高揚感をもたらします。
私たちはこの高揚感を求めて、次から次へと連続で作品を視聴したくなります。イッキ見を続ける限り、脳はドーパミンを生成するので、視聴時間をコントロールするのが難しくなってしまうのです。
また、テキサス大学の研究では、孤独感を感じている人、抑うつ状態の人、自己抑制力が低い人は動画をイッキ見する傾向があることが分かっています。
イッキ見が止められない背景には、視聴者が『動画を見るのを止める決断』をするのを難しくするようにデザインされたテクノロジーの存在もあります。
それについては、『【本の要約】僕らはそれに抵抗できない-依存症ビジネスのつくられかた』に詳しくまとめてあります。興味のある方は参考にどうぞ★
デメリット|イッキ見が心身に及ぼす影響
イッキ見は比較的新しい習慣のため、それが心身にどのような影響を及ぼすかについての研究はまだ多くはありませんが、ここではこれまでの研究で指摘されている代表的な悪影響についてみていきます。
社会的孤立とメンタルへの悪影響
『イッキ見』は、『社会的孤立』と『精神的な健康状態の悪化』の間に関連性が存在することも報告されています。イッキ見は一人でいる時に行われる傾向があり、イッキ見をする人ほど自分を社会から孤立させると考えられています。
ある研究では、過度の動画視聴はストレスを解消するどころか、時間を無駄にしたという意識から、後悔や罪悪感、失敗の感覚と関連することも明らかになっています。
また、イッキ見が終わると、喪失感や虚無感を経験したり、憂鬱な気分になってしまう視聴者も少なくないようです。
認知機能の低下
毎日3.5時間以上動画を見ている人は、これが脳の健康に与える影響についても考えた方がいいかもしれません。
2019年に発表された研究では、1日3.5時間以上テレビを視聴することが、将来的に認知機能の低下につながる可能性もあることが示唆されています。
この研究は、50歳以上の成人3,000人以上のデータを基に、テレビ視聴行動が認知機能の低下と関連するかどうかを調べることを目的としたものです。この研究結果から、1日3.5時間以上テレビを視聴することが、その6年後における言語記憶の低下と関連している可能性が高いことが明らかになっています。
身体的な健康リスクの増加
ミシガン州大学の研究では、イッキ見は『睡眠を放棄する』、『不健康な食事を選ぶ』、『不健康な間食をする』、『座りがちな行動をする(長く座る、運動をしない)』といった健康に有害な行動と関連していることも指摘されています。
長時間座っていることが、代謝の低下、心臓病、癌、血栓、深部静脈血栓症のリスクを高めることは以前からさまざまな研究で指摘されていることです。
また、テレビに気を取られながら食事をすると、通常よりも25%以上の量を食べてしまう可能性があるとも言われています。
また、就寝前にスクリーンがらの明るい光を浴びることで、概日リズムが乱れ、寝つきが悪くなる可能性も‥ 更に、サスペンスやアクションなどの作品は、脳を覚醒させてしまうので注意が必要です。
メリット|イッキ見による意外な効果
これまで行われてきた研究の中には、イッキ見のプラスの効果に焦点をあてたものもあります。
社会的つながりを確立する
イッキ見という行為は、その番組を中心としたコミュニティ『共有文化空間』を育みます。
この共有空間によって、視聴者は、会話のきっかけが生まれ、他の人々と関わり合い、個人的な視点を気軽に共有することができるようになります。
また、共通の趣味や話題が生まれることで、家族や友人との絆が深まるというメリットも報告されています。
ストレスの減少、リラックスを促進する
シリーズ作品を複数話続けて見ることには、ストレスの減少やリラックスを促進するといったプラスの効果もあると言われています。
ちょっとした息抜きとして、作品の中の世界に入ってみるのは必ずしも悪いことではないようです。
ただ、深刻な現実から逃げるためにイッキ見を続けているであれば、それが依存に繋がってしまう可能性も高いので注意が必要だそう。
作品世界への没入感を味わうことができる
イッキ見をしている間、視聴者はドラマや映画などの作品世界へ入り込んでいるような没入感を味わうことができます。
先に紹介したミシガン州の研究では、エンタメのもたらしてくれるポジティブな効果(楽しみ、没入感、登場人物への関与)は、作品を週に1話で見るよりも、イッキ見の後に強くなるということも分かっています。
Netflixの調査で、10人に8人が『シリーズ作品番組を単発で見るより、イッキ見する方が楽しい』と回答しているのもうなずけます。
まとめ
この記事では、イッキ見という新しい動画作品の楽しみ方が流行したきっかけや、そのメリット・デメリットなどをまとめて紹介しました。
イッキ見は、一概に『良い』『悪い』と言えないというのが事実。
ただ、メリットがあるといっても、やはり、長すぎる視聴は避けた方がいいかと思います。
日常生活に支障をきたさない程度、『ほどほど』を意識していきたいですね。