インフルエンサーがSNSを通して発信する情報の影響力が大きくなるにつれ、現代のマーケティングは、SNSなしでは成り立たないと言われるほどにもなりました。
そんなSNS×インフルエンサーの影響力を巧みに利用した最大級の詐欺事件『Fyer Festival(ファイア・フェスティバル)』をご存じですか?
この記事では、Netflixで配信されているドキュメンタリー『FYRE: 夢に終わった史上最高のパーティー』を基にして、インフルエンサーマーケティングの影響力やFOMO文化についてみていきます。
夢に終わった史上最高のパーティー『FYRE』について
2017年春にバハマの島で2週間にわたって開催される予定だった、セレブが集う豪華音楽フェスティバル『Fyre Festival』!
このイベントの主催者は、ビリー・マクファーランド(Billy McFarland)とラッパーのジャ・ル―ル(Ja Rule)でした。
バハマの島を買い取って、裕福なミレニアル世代をターゲットに豪華な宿泊施設や食事を売り物としていたFYREフェス。
有名なモデル、インフルエンサー達がSNSを通してFYREフェスを宣伝したことで、大注目を集めました。
そのPR映像がこちら!
ところがフェス当日、参加者が目にしたのは豪華なヴィラではなく、災害用のテントと、泥だらけの乱雑な建設現場、そして粗末なサンドイッチ‥
バンドもDJもミュージシャンも、誰一人として会場に来ていませんでした。
その上、旅費込みのはずが、帰りのフライトは手配されておらず、置き去りにされた数千人の参加者はバハマの孤島に取り残されてしまったのです。
こうして、FYREフェスは大失敗に終わり、イベントの主催者マクファーランドさんは詐欺容疑で逮捕されることになりました。
大学中退後にミレニアル世代をターゲットにした高級会員制クレジットカード『Magnises』を立ち上げ若き起業家とも呼ばれていたマクファーランドさんですが、音楽フェスを開催したことは一度もなかったといいます。
そんな彼が、何もないバハマの孤島に、宿泊施設からステージまでを建設するという無謀な企画を始めたのがフェス開催日のわずか6か月前‥
Netflixは、この事件についてのドキュメンタリー『FYRE: 夢に終わった史上最高のパーティー』を2019年に配信しています。
作品内で、マクファーランドさんは、資金も時間もなくなりそうななか、次第に規模が膨れあがっていく音楽フェスを強引に推し進めた人物として描かれています。
SNSで何万というフォロワーをもつインフルエンサーを通して行ったマーケティングが引き起こしたこのFYRE事件は、投稿と広告の境目や、誇大広告の問題について考えさせられるきっかけとなりました。
ちなみに、同じくHuluでもFYRE事件を基にしたドキュメンタリー『Fyre Fraud』が配信されているようです。
原題:FYRE: The Greatest Party That Never Happened
制作国・年:アメリカ (制作2019年)
作品時間:97分
ジャンル:ドキュメンタリー映画
公式ページ: https://www.netflix.com/title/81035279 (Netflix)
SNSを巧みに利用したFYREマーケティング
このFYRE詐欺事件の背景には、インフルエンサーの影響力とSNSをフル活用した現代ならではのマーケティングと、SNSが普及したことで増えている心理現象『FOMO』があるかと思います。
インフルエンサーたちの影響力の大きさ
インフルエンサーに高額な報酬を支払って制作したFYREフェスのPRビデオや投稿写真は、インスタグラムやFacebookで売り込まれ、大注目を集めました。
FYREフェスのPRビデオに出演していたのは、
といった有名モデルたち。
それぞれのインスタグラムでバハマで撮影した写真を投稿し、FYREフェスの宣伝をしていました。
それに加えて、FYREフェスは、数百万人のフォロワーを持つ400人以上のインフルエンサーによって大々的に宣伝されました。
インフルエンサー達が、ハッシュタグ『#FyreFestival』をつけて投稿した写真の数々は、24時間で3億回以上のインプレッションを獲得するほど注目を集めました。
FYREのチケットの価格は1,500ドル(約17万円)からスタートし、高いもので25万ドル(約2,760万円)!
販売開始から、チケットはすぐに売り切れたのだそうです。
FYRE事件から見えるFOMO文化
『このフェスに参加しなきゃ話題に乗り遅れる』と思わせるような魅力的なFYREのプロモーション。
フェスへの参加者が殺到したのは、この『FOMO(fear of missing out)』の心理を上手く利用した宣伝にあったからだと言われています。
FOMOとは、取り残されることへの不安のことで、『自分がいない間に他人が楽しい経験をしているかもしれない』と感じさせることです。
FOMOは、危険を察知する判断を鈍らせ、FYREフェスのような詐欺に利用されるリスクを増大させると言います。
社会的地位を高めたり、貴重な経験を得るチャンスがあるものを『見逃す』ことの方が、より大きなリスクのように思えてしまうのです。
インスタグラムなどのSNSに写真を投稿して得られるエンゲージメントの量で、自分の本質的な価値を見出す人が増えているミレニアル世代。
このドキュメンタリーでは、周りの友人やフォロワーができないようなFYREフェスの特別な体験をインスタグラムへ投稿をするために、大きな額を費やすこともいとわない様子が映し出されています。
私が先日読んだ『スマホ脳』で紹介されていた調査では、私たちがSNS上で特に嫉妬を感じるのは『他人の経験』だということが結論づけられています。
特別な場所での休暇の写真は、高価なモノの写真よりも嫉妬を起こさせるのです‥
FYREを宣伝したインフルエンサーの責任は?
詐欺とは知らずにFYREを宣伝したインフルエンサーに責任はあるのか?
という点においては賛否両論あるようです。
FYREを宣伝したインフルエンサー達は、実際にフェスが開催されると信じ込んでいたようですが、虚偽広告でイベントを広める事に加担してしまってもいるのも事実。
このフェスを告知する投稿をインスタグラムで行ったモデルのケンダル・ジェンナーは、賠償金の支払いを求める起訴を起こされ、和解金を支払っています。
裁判では、報酬を得ていることを開示せずに投稿を行った点や、義理の兄カニエ・ウェストが、フェスに出演するという虚偽の告知を行った点が問題視されたと言います。
一連の騒動で浮き彫りになったのが、ほとんどのインフルエンサーたちが投稿にスポンサー付きのコンテンツであると示していなかったことです。
それにより、フォロワーやフェスティバルの参加者に、インフルエンサーが個人的にイベントを宣伝しているだろうという誤解を招いてしまいました。
一般的に多くのフォロワーを持ち、そのフォロワーの心や行動を形成する力を持っているのが『インフルエンサー』。
FYRE事件をきっかけに、インフルエンサーたちもどんな広告主と組むのか慎重になり、インフルエンサー・マーケティング業界全体での意識が高まったという声もあるようです。
まとめ
この記事では、夢に終わった史上最高の音楽フェスFYREの詐欺事件を基にして、インフルエンサーマーケティングの影響力やFOMO文化についてご紹介しました。
結果的に、主催者のマクファーランドさんが詐欺容疑で逮捕される形になりましたが、この事件を悲惨な結末へと導いた裏にはSNS×インフルエンサーの影響力、FoMOの感情など、さまざまな要素があったのだと思います。
インフルエンサー・マーケティングに携わっている方、SNSでインフルエンサーをフォローしている方には特におすすめのドキュメンタリーです。